第17章 代償(R18:孤爪研磨)
ようやく本日全ての仕事を終えて、廊下に出る。
そのまま左へまっすぐ進むと、そこはこの病院のロビーだった。
無駄というほど立派な造りの総合受付カウンターを横目に、私は職員用ロッカーがあるフロアへと歩を進める。
この日の診察はすべて終了しているため、ほとんどの照明は消灯されていた。
いつのまにか落ちた夕陽。
メインホールの自動ドアからわずかに見える空は、淡い群青色に変わってしまっている。
「……クロ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって、心配すんな」
声が、聞こえた。
中性的なテノールと甘い低音。
きっと気のせいじゃない。
微かにだが、確かに聞こえた。
クロ、本当に大丈夫。
クロ、彼のあだ名だ。
こんな時間にいるはずのない少年たちの声に、私は気づけば早足になっていた。
入院患者が買物をするための院内コンビニエンスストアを越えて、灯りの消えた廊下をひたすらに進んでいく。
一般外来病棟とは区切られたエリア。
透明ではない自動ドアをくぐり抜けて【緊急外来】のフロアに辿りつくと、そこに立っていたのは──
「あ、……りんご飴のおねえさん」
はらりと揺れる、小麦畑のような。
「──……また会えたね」