第17章 代償(R18:孤爪研磨)
上昇を続ける小さな直方体。
階数表示は30を越えたばかり。
展望階はまだ、遙か上空だ。
「んで、それってどんな病気なの」
「んー……そうね……、敢えてひと言で表すなら、周囲の気を引きたいがための傷害行為、かしら」
「要するに?」
「他者をわざと傷つけ、それを自ら献身的に看病することによって周囲から褒められたい、認められたい。とても複雑なこころの病のひとつなの」
そこまで言って台詞を切る。
切って、彼の反応を待った。
「そっか、……なんか悲しいな、それ」
呟くようにこぼした黒尾くんが、おもむろに私の手を握る。
運良く貸しきりで乗れたエレベーター。二人だけの空間。静けさのなかに響くのは展望階が近づいたことを知らせるアナウンスと、低く唸る機械音だけ。
そっと。
そっと。
彼の唇が、私に触れて。
「──……俺は、絶対に絢香さんを傷つけたりしねえよ、約束する」
私たちは、初めてのキスを交わした。