第16章 遊戯(R18:国見英)
英くんは岩泉先輩に心酔している。
好きとか、恋とかではなくて、人間として憧れているのだと言っていた。自分もああいう人間になりたいけれど、絶対になれないだろうから、余計に憧れるのだと。
彼はこうも言う。
岩泉さんと俺は、根本的に違うから。
私にはその意味が深くは理解できない。なにが違うのだろう、と思うから。
たしかに岩泉先輩は英くんにない男らしさや威厳、気迫といったものを兼ね備えているけれど、根っこの部分は一緒じゃないのかな。私はそう思う。
他者にやさしく、実直で。
何よりもバレーが大好き。
ほら、おんなじだ。
だから自信を持ってほしい、とも思う。英くんは自分に対する自己評価がとても低いときがあるのだ。
周囲を取りかこむ先輩たちが【ああ】だから、自分を卑下してしまっても仕方ないのかもしれないけれど。
「これ岩泉さんには内緒な」
し、と一本指を唇に。
内緒の約束を私に言いつけて、英くんは男バレ1年のグループトークに岩泉先輩の写メをアップした。
光とおなじ速さで通知が返ってくる。
金田一:やべえ
金田一:すげえ
金田一:かっけえ
その他の部員からも続々と寄せられる賛辞の嵐。
岩泉先輩の人気ぶりにちょっと面食らって、コンマ二秒で「いらない」と拒否られた及川先輩をかわいそうに思った。
シンデレラの王子様役、とても素敵だったのに。
いやたしかに女子という女子にウィンク投げ散らかすのはどうかと思うけど。私がこっそり構えたはずのカメラにすら気付いて、カメラ目線ばっちりでウィンク飛ばしてるけど。
及川さん?
もちろん尊敬してるよ。
あの人、すごい人だし。
でも、うん、あとは察して。
以前そう語っていた英くんを思い出しながら、私は及川先輩のウィンクをそっとスワイプして写真アルバムを閉じた。