第16章 遊戯(R18:国見英)
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英くんの部屋は、春の朝霧とおなじ匂いがする。こんなこと言ったら、またドン引きされてしまうだろうか。
大好きな彼の右隣。
スマホの小さな画面におさめたメルティショコラを眺めて、私はによによと顔を綻ばせていた。
「にやにやしすぎ、喜びすぎ」
「だってうれしいんだもん」
たかがアイスぐらいで。
英くんはちょっと呆れたようにそう言う。ロータイプソファに腰かけてあぐらをかく彼。手元には月刊バレー雑誌。
「たかがじゃないよ、されどだよ」
彼からもらった最高の記念日プレゼントを見つめて、私はまたひとつ、うっとりと目尻を垂れさせる。
あ、そうだ。
ふと思い出したのは先日の。
「じゃーん、英くん、これ見て」
東京セッター特集と書かれたページ。
白黒にゴールドラインが特徴的なユニフォームの学校が取りあげられている記事を黙読していた英くんは、私の声に反応して視線をあげた。
彼に見せるのはとある写メ。
先週の土曜日に行われた体育祭の、応援合戦中にこっそり激写した一枚だ。
「よく撮れてるでしょ?」
「……それ俺にも送って」
「じゃあこっちは?」
「あ、それはいらない」
彼が欲しがってくれた一枚は、特攻服に身を包んだ黄連団長、岩泉先輩の写メだった。