第16章 遊戯(R18:国見英)
(なんだ、彼女もちじゃん)
(ていうか居るの気づかなかった)
そしてそのギスギスとした視線の痛いこと。やっぱり存在すら認知されていなかったらしい。ちょっと傷つく。
「早くして」
「あ、うん、……ごめん」
「どれ?」
「へっ?」
「アイス、どれにすんの」
ぶっきらぼうにそう問うた英くんの手には、溶けはじめたダブルカップの雪だるま。
そうだ、そうだった。
英くんは「いただきます」を一緒にしてくれる人なのだ。レストランでも。バーガーショップでも。
先に自分のお料理が運ばれてきても、絶対に先に食べないで待っててくれる。意外な彼の一面。
そんな優しい彼が、大好きだ。
って惚けてる場合ではなくて。
「え、っとね、メルティショコラ」
「このチョコのやつ?」
「うん、……あ、でもお金は自分で」
サッと私の分の注文をして、スッと私の分の代金を払ってくれる英くん。
私はわたわたと自分のお財布を開けるのだけれど、しかしその行為はすぐに制されてしまった。
私を制す、大きくてきれいな手。
「いい、今日は俺だすから」
「……でも、」
「黙って奢られといて」
なおも小銭を出そうとする私を「記念日だし」のひと言で黙らせて、英くんは足早にアイス屋さんを出ていってしまった。
その耳たぶがチェリーリボンとおなじ色に染まっていた気がしたんだけど──
気のせいかな。
気のせいじゃないといいな。
店員さんからメルティショコラを受けとって、慌てて彼の背中を追う。