第15章 禁忌(R18:岩泉一)
「ん、ぅ、……っ」
漏れる吐息は驚くほどに甘い。
自分の声じゃないみたいな音がこぼれていく。先生のキスが、私を侵していく。
私の後ろ髪に添えられた大きな手は、逃がしはしない、そう言いたげに項を押さえつけて退路を塞いだ。
「……っん、は、……せんせ」
しとりと濡れた舌が歯列を割る。
差しださずとも奪われていく自身の熱が、先生に絡めとられていく。
堪らず呼んだ「先生」さえ奪われて、奪われた代わりに、こんな言葉が注ぎこまれた。
「俺の名前、呼んでみ」
「……っ、……岩い」
「そっちじゃねえよ」
「っ、……、……はじ、め」
止まないキスの合間に呼んだのは、はじめての。
満足そうに微笑する彼。
見たことのない、男の顔をしてる。
教師じゃない。
生徒じゃない。
私たち、今、普通に男女なんだ。
「もう一度」
「え、やだ、……恥ずかしい」
今度は一旦離れたキスの合間に言葉を交わした。いまだ流れているニュース。
今年のセ・リーグはどこの球団が強いだとか。オリンピック施設の建設がどうだとか。
ふとテレビを見やった先生がおもむろにリモコンを握って、赤い、丸を。
電源と書かれたボタンを、押した。
部屋に静寂の幕が降りる。
「瀬野、先生の言うこと聞け」
「……っ! こんなときだけ、教師の顔、……ずるい、職権乱用」
「こういうのは特権っつーんだよ」
で、呼ぶの?
呼ばねえの?
彼は言いながら私を抱きよせて、そのまま、抱きあげて。ベッドまでの数歩はあっという間。
背中がシーツの感触をとらえる。
ひやり、冷房で冷やされた布。
「──それともちゃんと呼べるようになるまでお預けしてやろうか?」
唇に触れるか触れないかの距離で囁いた彼の、その瞳は、大人の男性にしか出せないのであろう色香に満ちていた。