第2章 嗚呼、愛しのバーレスク!(R18:影山飛雄)
私は声が枯れるまで泣いた。
わんわんと泣いた。まるで子どもみたいに、彼の胸に縋って止むことなく泣き続けた。
慌てふためく優に新人くんが「俺がついてるんで」と言ってくれて、ちょっとだけ笑みがこぼれた。嬉しかった。こころが暖かくなった。
初めての、感情だった。
「絢香、さん」
「……絢香でいいよ」
「じゃあ絢香」
「なに?」
「いつか、俺はあの店で頂(てっぺん)を取るつもりだ。つもりじゃない。取る。絶対」
彼はそこまで言うと、すく、と腰をあげて私を見た。しゃがんだままの私。彼の右肩の向こうに、大きな大きなお月さまが輝いている。
「そしたらお前、飲みにこい」
「……え、でも、」
「そんで言ってやるんだよ。及川さんに。トオルさん、アンタの時代は終わったんだぞ、って」
大真面目な顔。
彼、嘘みたいなことを、嘘みたいに真面目な顔をして、本気で言ってる。
そんなことしたらあの悪魔がブチ切れて大変なことになるのに、どうしてかな、彼となら何だって出来る気がした。
「俺の手を掴むか? プリンセス!」
「ええー? 何それ、ふふ、変なの」
やけに上から目線で差し伸べられた手。その大きな手を握って、私は小さく笑った。
【了】