第15章 禁忌(R18:岩泉一)
「いえ、ううん、お腹いっぱいで」
「そっか、打ちあげだったんだもんな」
手にしていた食料品を適当に放って、冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取りだす彼。
そのうちの一本を私に差しだしながら「どうだった?」と問うた彼を、まじまじと見つめてしまう。
「どう、って、なにが……?」
「打ちあげ、楽しめたか?」
そういえば、何も覚えてないや。
ずっと先生のこと考えてたし。
そんな言葉が瞬時に脳内を駆けめぐったけど、素直に言うわけにもいかなくて、代わりに「あー」だとか「うん」だとか曖昧な返事をしておいた。
漫然と、時だけが過ぎていく。
交わすのは他愛ない会話ばかり。
なのに、その全てが特別で。
信じられなかった。
先生と、先生の部屋で、一緒にテレビを見てる。
この芸人は面白いだとか、この俳優は演技がうまいだとか、家族とするような会話をしているのだ。先生と。
恋焦がれた、好きな人と。
このまま時が止まってほしいとも思うし、でも、肝心なことを話さなければとも思う。
それはたぶん先生も同じなんだろうけれど、お互いタイミングが掴めずにいた。
私はまだ、高校生だけど。
でももう小さな子供じゃない。
彼の部屋に連れてこられた意味を理解しているつもりだし、これから何が起ころうとしてるのかも、恐らくは。