第15章 禁忌(R18:岩泉一)
【last scene:内緒のお話】
玄関に上がって、まずびっくりした。
先生が帽子もマスクも外したからだ。露わになった素顔が、それこそ毎日のように学校で見てきた先生そのものだったからだ。
「……本当に岩泉先生だ」
つい思ったことがそのまま声になってしまう。
慣れた手付きでスニーカーの紐をほどいていた先生が、なんだそれ、とまたひとつ小さく笑う。
よく片付いた玄関。
並ぶのは男物の靴ばかり。
ほとんど使った形跡のないキッチンを横目に、適当に座っていいぞと促される部屋。殺風景なリビング。
先生は普段、ここで生活してるんだ。
そこのソファに腰かけて、このテーブルでご飯を食べて、そっちのベッドで眠りにつく。
コンセントに刺さったままの携帯充電器が。テレビ脇に置かれたレンタルDVDショップの袋が。読みかけのまま無造作に置かれたバレー雑誌が。
全部が彼の生きてる証。
私、本当に先生の部屋にいるんだ。
「なんか食う?」
フランクな声がした。
まるで自室に遊びにきた友人に話しかけているかのような、そんな声。
先生、じゃない。
視線の先には【岩泉一】というひとりの男性が立っている。
右手にはスナック菓子を、左手にはインスタントラーメンを持って、私を見つめている。