第15章 禁忌(R18:岩泉一)
先生が愛飲してる銘柄。
Bから始まるそれ。彼のは黒色の缶で、私のはカフェオレ色。
「ああ、でも寝てちゃ飲めねえか」
先生はちょっと自嘲ぎみにそう言って、サングラスだけを外した。
タイヤが、滑りだす。
直後にがたんと衝撃。
それがコインパーキングの車止めを越えたことによる衝撃だと知ったのは、先生に「隠れるような真似させてごめんな」と言われたあとのことだった。
見上げる窓越しの景色。
闇夜を照らす黄色は【P】と書かれた看板で、空車スペースありの表示が煌々と灯っている。
見覚えのある地元の空が、少しずつ、知らない空に変わっていって。
「もう頭上げてもいいぞ」
彼にそう言われたときにはもう、見たことのない景色で辺り一面が埋めつくされていた。
おず、と開けるプルトップ。
先生からもらったカフェオレをひと口含んで初めて、自分の喉がからからだったことに気付く。
「甘い、あ、……いただきマス」
思い出したように加えた言葉を聞いて、先生が小さく笑う。
どうぞ召しあがれ、だなんて。
やさしい声で言うものだから、私は顔を赤よりも赤くして俯いた。
恥ずかしい。まるで茹であがったタコだ。先生にこんな顔、見せたくない。
「瀬野」
はい、と開きかけた口のまま。
顔をあげて思わず閉口する。
ルームミラー越しにぶつかる視線。先生の眼差し。車は赤信号で止まっていて、私たちを囲む景色も止まっている。
彼から、瞳を逸らすことができない。痛いほどに見つめられて、空くはずのない穴が空いてしまいそうだ。
「お前、門限は?」
20:58
刻まれる時間。
「あと二分後です、……でも、」
でも、今日は。
その先にあるセリフを聞いた先生は、分かった、ただひと言そう告げて、ブレーキペダルから足を離した。
踏まれるアクセルペダル。
進みだす車と、私たち。
──信号が、青に変わった。