第15章 禁忌(R18:岩泉一)
「──なんてな、そのままそこ寝とけ」
サングラスとマスクを外さずに告げて、離れていってしまう声。
先生は車外に飛び出していた私の両脚を抱えて中にしまうと、そっとドアを閉める。
ぽつんとひとり残された車内。
ほのかに香る、制汗剤のような。
夕暮れの昇降口で先生から香ったのは【これ】だったのかと、ドリンクホルダー付近に置かれた芳香剤をみて独りごちた。
「……Perfumes of Orchard」
ゴールドに4という数字が特徴的なロゴラベルには、英語でそう印刷されている。
勉強なんて何の役に立つんだろう。
気怠い授業に耐えて、毎日思ってた。
でも、今、役に立った。
Perfumes of Orchard.
果樹園の香り。
先生の好きな香りを知るために必要な知識。英語のお勉強。嫌いだけど頑張っておいて良かったと、心からそう思う。
「待たせた、悪い」
しばらくして開いた運転席のドア。
スマートキーでエンジンをかけてからこちらを振り向いた先生は、ん、と冷えた缶コーヒーを差しだした。