第15章 禁忌(R18:岩泉一)
「え、うそ、先生なの?」
「瀬野、お前なあ、ナンパ野郎相手にそんな弱気でどうすんだ。断るならもっとガツンといけ、ガツンと」
「は? ……はあ!?」
「ナンパ野郎が近づいてきたら、こう、急所か喉元狙って一発食らわせてやんだよ。んで即効警察呼べ」
分かったか?
大真面目な顔でナンパ撃退法を説明するサングラス男、改め岩泉先生は、護身術について語りながら歩きだす。
──その大きな手は、私の手首を掴んだままだ。
商店街とは逆方面の道。
景色が、どんどん流れていく。
場末のスナックやパチンコ店、最近できたばかりのドラッグストアを通りすぎると、暗がりのなかに小さなコインパーキングが見えてきた。
停まっている車は一台だけ。
シルバーのセダン。
彼の、岩泉先生の車だ。
「そういう訳でだな」
キュイ、と電子音。
車の鍵が開いた音。
「しっかり撃退しねえとナンパ野郎に食われちまうぞ?」
おもむろに伸びた先生の手が後部座席のドアを開けて、そのまま、シートに私を押し倒す。
「こんな風に、な」
またも耳元を撫ぜつける彼の、教師でいるときには絶対出さない声。甘い声。
ピアスホールが熱い。
狂ったように、──熱い。