第15章 禁忌(R18:岩泉一)
視線を下から順に這わせれば、そこには細めのダブルニーパンツに黒無地のTシャツが立っていた。
そこそこ高い背丈。
その顔面はサングラスとマスクに覆われている。しかも、マスクも黒。
最近流行ってるやつだ。
私も買ったことがある。
頭部にはアメリカ製のベースボールキャップを被っているし、なんていうか、この人すごくガラが悪い。街で擦れちがったら確実に避けてしまうレベルだ。
「何してんの? ひとり?」
「…………」
「暇してんなら俺といいことしない?」
マスク越しのくぐもった声。
不快感を露わにして無視しても、サングラスの男はぐいぐいと詰めよってくる。こんな田舎でナンパだなんて、よほど暇なのだろうか。
「なあ、いいだろ?」
男の手が、私の手首を掴んだ。
一気に嫌悪が込みあげてくる。
「っや、やめてください……!」
図らずも震えてしまう声で抵抗すると、ピタリ、男はその動作を止めてこちらを見つめた。
ジーッと見つめられて。
数秒の沈黙。
その、刹那。
「──断り方が弱え、もう一度」
ん、え?
突如として聞こえたのは彼の声。
大好きな彼の、岩泉先生の声。
辺りを見回す。
誰もいない。
寂れた商店街の入口には、アーチ型のアーケードと、私と、ガラの悪いナンパ男だけ。
きょとんとしてサングラス男を見つめると、黒一色のレンズのなかに、──微かだが見覚えのある瞳が見えた。