第1章 キミは宇宙の音がする (R18:灰羽リエーフ)
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「リエーーーフ! てんめええ……またビブス破きやがったなこの馬鹿力!」
ああ、なんて喧しい昼下がりだろう。
聞き覚えのある騒音に大きくため息をついて、私は鍵盤から指を離した。
水分を含んだ風。雨の匂い。
新学年としての生活が始まって二ヶ月が経った、ある六月のことだった。
「罰として外周追加ァ!!!」
僅かに開いた窓から飛びこんでくる怒声。その声の主は新しいクラスメイトで、たしか、名を夜久衛輔という。
バレー部に所属しているらしい彼は、最近、放課後になるといつも同じ名前を叫んでいるのだが──
「リエーーーフ!!!」
ほら、また。
再度聞こえた夜久くんの怒号に、私は何とも言えない面持ちになった。そもそも誰なのだ、リエーフって。
外人か、はたまた、キラキラネームか。凛英風と書いてリエーフです、だなんて落ちだったらどうしよう。それはそれで面白い気もするけれど。
そろり
そろり
私は来たるピアノコンクール用に練習していた楽譜を閉じて、窓辺へと歩を進めた。