第1章 キミは宇宙の音がする (R18:灰羽リエーフ)
触れ合うところ全てが熱かった。
月明かりを受けて青白くなった五線譜を眺めて、ぼんやりとそんなことを考えていた。私には、眼前にあるそれがひどく美しいものに思えた。
「どうして……なんで、何も言ってくれなかったんですか」
彼は問うた。
震えた声で問うのだけれど、私は何も応えることができない。ただ俯いて、どうしようもなく、月並みな台詞を言うことしかできなかった。
「……ごめんなさい」
ピアノはいいなあ、と思う。
どこまでも続く白鍵の白。
点々と寄り添う黒鍵の黒。
この鍵盤のようにずっと、ずっと、こうして一緒にいられたらいいのに。
「俺、いやです、……嫌だ」
離れたくない。
語気を強めてそう付け加える彼。
私を抱く腕に一層の力を篭めて、これ以上ないほどに二人の体温を重ねようとする。
「……離、して」
「いやだ、離さない」
「……お願い」
「絶対に離さない」
熱い、熱い、熱い。
首筋に触れるあなたの吐息が熱い。あなたを想うこころが熱い。熱くて、痛くて、──苦しいよ。