第15章 禁忌(R18:岩泉一)
「ほ、あー……綺麗な子スねえ」
呑気に惚けているのは金田一だった。教員用本部テントの下で、審査シート片手に頬を赤くしている。
その視線の先にはもちろん彼女、──ウェディングドレスに身を包む瀬野の姿があった。
しかも、だ。
あろうことか排球部(うち)のエースにお姫様抱っことやらをされている。
スピーカーから流れているのは生徒たちの間で流行しているラブソングだし、瀬野は楽しそうに笑ってるし、おまけにうちのエースはいい男だし。
かつての及川といい勝負なくらい、いい男だ。なんかすげえムカつくけど、事実である。
あんな整った顔面の男に抱かれて、嬉しくない女なんているのだろうか。色恋沙汰に関して「岩ちゃんは疎いし鈍感さん!」と称される俺ですら、そう思う。
だから、瀬野もきっと。
ちくん
鳩尾のあたりで音がした。
刺々しい感情。
痛い、と思う。
初めての恋でもあるまいに、とも思った。些細なことが心に刺さってしまうのだ。まるで、高校生の自分に戻ってしまったみたいに。
俺だってそれなりに人生を生きて、色々経験して、大人と呼ばれる年齢になったはずなのに。
俺は大人なのだから、こんなことぐらいじゃ心乱れないし、醜い感情に苛まされることだってないはずなのに。
どうして、こんなにも。
瀬野の楽しそうな顔を見るたびに、他の男が瀬野に触れるのを見るたびに、彼女に触れたくても触れられない自分を自覚するたびに。
ちく
ちく
ちく
痛い、痛い、痛い。
俺もお前に触れたいよ、瀬野。