第15章 禁忌(R18:岩泉一)
「瀬野」
白いハチマキを手に、彼女を呼んだ。
俺の声がした瞬間。
細い肩が、びくりと跳ねる。
視線がぶつかって。
胸が苦しくなって。
周囲の生徒が怪訝そうな顔付きになってしまう、その寸前で、俺はハチマキをぐいと彼女に押しつけた。
「くっちゃべってねーで前向け」
そろそろ開会式だぞ。
白々しく足した言葉。
「……あ、うん、わかった」
ごめんなさい。
彼女は俯いてしまう。
その頬が赤くなってただとか、俺の心臓が馬鹿みたいにドキドキしてるだとか、ハチマキを渡すときに手が触れた、だとか。
全部が特別に思えた。
世界が違って見えた。
ぐつぐつと湯が沸いていくように上昇する熱。好きという気持ち。それは日を追うごとに熱く、その質量を増して、俺の理性を狂わせていく。
「岩泉顔こわーい」
「マジゴリラー」
「うっせ! 誰がゴリラだボゲ!」
瀬野を挟むようにして並んでいる女子生徒たちを一喝して、つくってみせる教師面。
本当はそれどころじゃない。
彼女のことで頭が一杯で仕事どころじゃないし、ここ最近ちっとも寝てないから体調なんか絶不調だ。
だけど、──俺は教師だから。
「岩泉先生ー、こっちにもハチマキー」
「おー、悪い悪い、今行くからなー」
俯いたままの瀬野に背を向けて、俺は、教師としての自分を演じることに徹するのだった。