第15章 禁忌(R18:岩泉一)
【scene3:いとも容易く】
気付けば彼女のことばかり考えていた。悶々とする、というのは、こういうことを言うのだろうか。
及川と別れて帰宅した晩は、それこそ朝日が昇るまで眠れなかった。
浮かぶのだ。
瞼を閉じるたびに。
瀬野の笑顔が、泣顔が。
放課後になると毎日決まって訪れる彼女を、俺は、いつしか心待ちにするようになっていた。
自分でも気付かないうちに。
いつの間にか、惹かれてた。
知っている。
知っていた。
瀬野が体育科準備室を出たあと、ひとりで泣いていること。
俺が事務仕事を終えて出てくるまで待とうとして、しばらく廊下に座りこんで、でもやっぱり帰っていくこと。
バレー部の練習へ向かわなければならない俺に、迷惑をかけまいとしてくれているのか。それとも、崩れた「メイク」とやらを見られたくないのか。
及川に聞いたら確実に後者だと言われそうだけれど。
気になって仕方がなかった。
どうにか慰めてやりたいと、ずっとそう思ってた。
でも、そんな自分の気持ちを認めてしまう訳にもいかなくて、俺は本心から目を背けていた。
そう、まさにあれだ。
自己欺瞞、ってやつ。
「……い、……先生! 岩泉先生!」
パチンッ、と晴れる霧。
もやもやとした沼底に沈んでいた意識が引っぱりあげられて、現実世界に浮上する。
俺を呼んだのは、同じく体育科教師を務める金田一勇太郎だった。チームメイト時代の後輩で、いまは職場の後輩だ。
金田一は現在、第一学年の授業を受けもっている。