第15章 禁忌(R18:岩泉一)
『ねえセンセ、今日のメイク可愛い?』
『岩泉先生、あーそぼっ』
『……先生の、……っばか』
「──……マジ、かよ」
胸が苦しい。
心臓じゃ、なくて。
こころのほう。
「及川、……俺、どうすりゃいい?」
ひどく狼狽している岩泉の肩を、ドンッと強めに打つのは及川の拳だった。
チームメイト時代。
青春のあの日。
なにか落ち込むことがあると【これ】をやって互いに鼓舞しあった。そんな落ちんなや。もう一本がんばんべ。
そう、言葉を交わして。
すっかり俯いてしまっていた岩泉が視線を上げると、朗らかな及川の笑顔が瞳に映る。花が綻ぶように笑む。いつもと変わらぬ友の笑顔がそこにはあった。
「こっから先は岩ちゃんが決めること」
「……俺が、決める、」
「そ! でもね、俺はそれがどんな決断だとしても誰よりも応援するし、このことを話してくれた岩ちゃんを本当に愛しいと思うよ」
なんちって☆
及川が照れまじりに飛ばしたウインクを、今宵ばかりは素直に受けとめて、岩泉はほのりと笑みをつくった。
「愛しいとか、きしょいわボゲ」
「このタイミングで言うことそれ!?」
「バカ、ありがとな、って意味だろ」
がやがやと賑やかな大衆居酒屋。
及川の肩にドスッと重たい拳を食らわせた岩泉の表情は、どこか晴れやかで。
その頬が赤くなっているのはお酒のせいなのか、それとも──
さあ、恋物語をはじめましょう。