第15章 禁忌(R18:岩泉一)
運ばれてきた二つの冷酒。
掌に収まるサイズのコップに並々と注がれたそれを「ん!」とひとつ岩泉に押しつけて、及川は強引な乾杯をした。
「飲んで」
「は? いや、俺ポン酒はあんま」
「いいから! 飲むの!」
ほら!
そう言葉で圧力をかけてくる及川。
鬼気迫るその表情に気圧されて、岩泉は米麹香る冷酒に口をつけた。
おずおずと飲み、嚥下する。
喉が焼けるような感覚だ。
岩泉はわずかに眉根を寄せてそれに耐える。
対して冷酒一杯すべてを一気飲みした及川は、コンッ、小気味良ささえ感じさせる音を立ててコップを机に置いてみせた。何かを決意したような顔。
普段は花のように朗らかな彼が、急に男らしい顔付きをつくって言葉を紡ぐ。
「俺、酔ってるからね」
「……? ……おう」
「酔ってるんだから、俺が何を言ったとしてもそれは全部お酒のせいなんだからね? いい?」
「──……分かった」
及川はそこで一旦言葉を切った。
切って、ひと呼吸。
美しい瞼は閉じられている。
彼はこころと身体のリズムを整えでもするかのように小さく息を吐いてから、スッと目を開いて岩泉を見つめた。
その姿はサーブに向かう彼に酷似していて、ああ、こいつに見つめられるボールはこんな気持ちなのか、と岩泉は言いようのない緊張感に苛まされる。
そして、──刹那。
「都合のいい自己欺瞞」
及川が放ったのは、叱咤だった。