第15章 禁忌(R18:岩泉一)
「なあ、及川、……お前によ、ちょっと聞いてほしい話があんだけど」
今日は、俺が話す番。
ジョッキのなかで揺らめく黄金に目を落とす岩泉は、心中でそんなことを考えていた。
あの日。
あの晩。
睡眠を削って聞いてやった代わりに、今晩はこいつに聞いてもらおう。
ちょっと恥ずかしい気もするが、かつて人には言えない【禁断の恋】を吐露してくれた及川になら相談できる。聞いてもらいたい。
そう、思ったのだ。
「ん、どしたの、急に改まって」
真面目なお話?
及川は軽やかに問うて、アレスタグラムに投稿しようと起動させていた自撮りアプリを閉じた。
ロックしたスマホを机上に、飲みかけの焼酎で口を潤して、それから真剣な面持ちをつくってみせる。
早くも相談に乗る態勢を整えてくれた友に内心感謝しつつ、岩泉は、絢香のことを及川に話していった。
彼女の名前。
彼女の容姿。
彼女の言動。
常にベッドに誘われていることを話した途端「それでそれで!?」と盛りはじめた及川に一発拳骨をして、岩泉は自身の想いを語っていく。
抱いてくれとねだる彼女の【好意】が冗談なのか、本気なのか、どう捉えればいいのか自分には分からない。
例えばそれが冗談なら、男相手にそんなことを言うもんじゃない、としっかり説教しなければならないだろう。
でも、もし。
例えばそれが本気なら?
「どう受けとめて、どう振ればその子を、……瀬野を、傷付けずに済むのか、俺には分かんねえんだ」
そこで話を終えた岩泉。
全然減っていない岩泉のビールを代わりに完飲して、及川は「おっちゃん冷酒二人分!きつーいやつね!」と声を張りあげた。