第15章 禁忌(R18:岩泉一)
【scene2:例の居酒屋】
「おっちゃん生一丁!」
「あと枝豆も追加ね!」
ここは、活気溢れる大衆居酒屋。
常連客が大声を出せば「あいよー!」と店主が元気いっぱいに大声を返す。
シュンシュンと湯が沸く音や、カチャンと乾杯が響く音。美味しい田舎料理と酒に舌鼓をうつ客たちの会話は、どれも弾んでいて楽しそうだ。
「ええー! マッキーと飲んだの!?」
がやがやとした店内に一際大きな、そしてワザとらしい声が響いた。
その声の正体は、彼。
艶々に手入れされた唇を尖らせてむくれている、及川徹である。
自身のうるつやリップをテレビCMの撮影用だと話した彼は、日本代表のバレー選手として過ごす毎日を送っていた。
選手としての活躍もさることながら、その容姿が華やかなことも手伝って、彼のメディアへの露出は非常に高い。
件のテレビCMなんて女性向けルージュの新商品だ。
君色のキスで、
俺を惑わせて──
岩泉はそのキャッチフレーズを聞いただけで吐気を催した。
まだシラフなのに、だ。
ちなみにこれは余談だが、及川と同じく日本代表入りした牛島若利と木兎光太郎は、二人で栄養ドリンクのCMに出演している。
○ァイトーー!
○っぱーーつ!
大人の事情で伏字だが、崩れそうな崖で手を取りあって叫ぶアレである。
アレビタンDである。
木兎がNGを連発したせいで、リテイクが37回に及んだことは言うまでもないし、その噛みっぷりにはあの牛若でさえ苦笑いをしていたんだとか。