第15章 禁忌(R18:岩泉一)
絢香は思う。
私、先生のことが好き。
どうしようもなく好き。
三年にあがって初めての授業を受けたその日から。急に生理がきちゃって目眩を起こした私を、おんぶして保健室に連れていってくれた、あの日から。
ずっと好き。
ずっと先生だけを見てる。
大好き、なの。
だけどそれは言わない。
言ってしまったら終わってしまうから。あなたは先生で、私は生徒だから。だから言わない。言えない。
だから私は今日も言う。
溢れて止まらない好きの代わりに、先生、私を抱いて、って──
「あー……もう分かったから、とっとと帰れ、な? 先生仕事が残ってんだよ」
強引に会話を終わらせた岩泉に背を押されて、絢香は体育科準備室を追い出された。
頑なに帰ろうとしない自分を押し出すためだと分かっているのに、彼が触れてくれたところが熱い。
どうしようもなく、熱い。
近付いたときに香った珈琲。
砂糖もミルクも入れないブラック。
先生の、一番好きな味。
「……冗談なんかじゃない、のに、」
ピシリと閉ざされた扉。
その前でひとり俯いて、絢香は、小さく小さく本音を漏らす。
香ったブラックコーヒーが忘れられなくて。それが、どうにも苦くて。
「……先生の、……っばか」
廊下を濡らしたのは、絢香の眦からこぼれた涙の雫であった。