第14章 衝動(R18:花巻貴大)
五階建てのマンションの角部屋。
間接照明とアロマディフューザーだけが灯る室内で、俺たちは改めて唇を重ねていた。
「っん、……ふ、ぁ」
なんとも甘やかな声が響く。
鼻腔をくすぐるのはシャンプーの香り。夏に大輪を咲かせる花の匂い。
彼女からも。
俺からも。
同じ花の香りがする。
たったそれだけのことが、尊い。
尊くて、奇跡で、幸せだ。
「……貴、大」
「なに、瀬野」
ベッドを背もたれ代わりにして交わす口付け。その合間。
キスを離さずに彼女が俺を呼ぶから、俺も、呼応するようにして言葉を返した。
「……分かってるくせに、意地悪」
彼女が拗ねてみせて言う。
ちょっとむくれた綺麗な顔。キスに濡れた唇が、何かをねだりたそうに可愛らしく尖っている。
いつも一番近くで見てたからかな。
たくさんの言葉がなくたって、分かるよ、──お前の言いたいこと。