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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第14章 衝動(R18:花巻貴大)




 *


「っふふ、もう、ほんとお腹痛い!」


 そんなこんなで居酒屋からの帰り道。
 俺は彼女を送るために、自分家とは反対方面の景色のなかを歩いていた。


「そんなに面白えか?」

「うん、だって貴大ってば、超怖ーい顔して下ネタ言うんだもん」


 私、可笑しくて。

 瀬野はとかく楽しそうに、涙すら浮かべて笑っている。弾んだ声音。ミラノ製のハンドバッグをぶんぶんと振る、ほろ酔いの彼女。

 ふたりで歩く夜道は、梅雨特有の湿った空気で満たされていた。

 雨の匂いと、夏の気配。
 間近に迫る開放的な季節への期待が、心を、ムズムズとくすぐったくさせる。



「そんでお前いま彼氏いんの?」



 唐突に問うたのは俺のほうだった。

 ぴたり、数歩前を歩いていた彼女が足を止めて。くるり、少し恥ずかしそうに振り向いてくれる。

 ナトリウムライトの下で揺れる艶髪が、やけに美しくて。


「んー、いないよ、今はまだ」

「……まだ?」

「でも、二秒後にできる予定」


 ちょっと悪戯に笑んだ彼女。

 まるでダンスでも踊るみたいに俺との間合いを詰めて、直後、その柔らかな唇に呼吸を奪われる。

 ──……キス、だよな、これ。




「私を貴大の彼女にしてください」




 彼女が囁いたのは、紛れもなく、俺が羨望を抱きつづけた非日常だった。

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