第14章 衝動(R18:花巻貴大)
「まあこの話はまた後でな」
「え、後で、……あっ、電話」
わたわたと意識をスマホに戻す彼女の手を握ったまま、俺は【電話に出る】をタップした。
ザザ、と雑音。
直後に息遣い。
その呼気は荒く、不規則で、電話の向こうで興奮しているのであろう川嶋の姿が、いやでも脳裏に浮かぶ。
『──……は、あ、絢香センセ?』
オナッてんのかこいつ。
マジかよ、と思う。
俺なら一発で警察に通報しているであろう変態ぶりだ。しかし瀬野はそれをしていなかった。
私は仮にも教師なのだから。
彼女はそう言っていた。
生徒の未来を安易に奪うワケにはいかないのだと、疲れた笑顔でそう語ったのだ。
沸々と、怒りが込みあげる感覚。
許せない。
許さない。
彼女の優しさにつけこんで、つまんねえ我欲のために、こんなこと──
「てめえ、それでも男かコラ」
『……っ!? え、だれ』
「レッドレンジャー様だ」
自分でもちょっと引くくらい怒っていた。怒りの度合いがデカすぎて「レッドレンジャー様だ」とか大真面目に言ってしまう。
でも敵は怯んでくれた様子。
俺の出方を窺おうとしているのだろうか。さっきまでの気色悪い呼気はもう聞こえない。
俺は大きく嘆息して。
それからス、と息を吸った。