第14章 衝動(R18:花巻貴大)
どうにかして彼女を笑顔にしたい。
俺の頭はそのことで一杯だ。
せっかく一緒にいるのだから楽しませてあげたいし、俺と過ごす時間は心安らかでいてほしいと思う。
不安があるなら取り除いてやりたいし、悲しいならそれを忘れさせてやりたいのだ。
──あの頃と、同じ。
俺の気持ちは高校生のときから何も変わってない。変われずにいる。
思えばいつだってそうだった。
瀬野と遊ぶときはいつも俺が馬鹿やって、無茶をして、時には身体まで張って笑いを取りにいってた。
そりゃあもう、芸人かってくらい。
俺は普段そういうことをするキャラじゃないし、自分自身、柄じゃないと思ってる。
だけど、瀬野だけは特別だった。
いつだって笑っていて欲しかった。
瀬野が恋人と喧嘩したときもそう。
俺は誰よりも彼女のことが好きだったけど、そんな自分の気持ちなんてどうでもよくて。少しでも瀬野が楽になるならそれで良かった。
それで良いと思ってた。
自分にそう言い聞かせてた。
だからいくらでも相談に乗ったし、夜明けまで電話して慰めてたこともある。
当時の瀬野の彼氏は大変おモテになるどこぞの及川とかいう奴だったので、彼女は非常に苦労していたのだ。
まあ、それもこれも過去のお話。
ぐるぐると脳裏を駆けめぐる甘苦い記憶をシャットアウトして、俺は現在の瀬野に集中することにした。
さて、今日は何をして笑かそうか。