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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第14章 衝動(R18:花巻貴大)




 *


 忘れられないわ、あの人のこと。

 そんな歌詞からはじまる古いラブソングが流れる店内。黒檀製のテーブルにはカクテルと地酒、それからバーニャカウダが少々。


「にしても、ビックリした」

「ん? なにに?」

「瀬野が帰ってきてたこと」


 俺は、市街にあるシャレた居酒屋にいた。普段タタさんと行くような小汚ねえ呑屋ではなくて、お洒落な、しかも個室の居酒屋さんだ。


 もちろん瀬野のためである。


『俺も一緒に連れてけや!』
『いや全力でお断ります』
『んだよケチ! ケチ巻!』

 タタさんのアグレッシブな野次馬根性から逃げるようにして、やっとの思いで辿りついたのがこの店というワケだ。


「あー……うん、実は怪我しちゃって」


 カクテルグラス越しに見える彼女。

 改めて間近にすると気後れしてしまいそうになるほどの、美しい顔立ち。

 瀬野はその美麗な顔を俯かせて、きゅっ、と唇を結んでみせた。


「……怪我?」

「……事故だったの、リハーサルに向かう途中にね、居眠り運転の事故に巻きこまれちゃって」


 ほら、これ。

 そう言ってスキニージーンズを捲る瀬野。その華奢な足首には、生々しい事故の記憶が刻まれていた。


「少しなら踊れるんだけどね」

「……うん、」

「もう前みたいには踊れないの」

「そ、っか」


 プロダンサーになるという夢を追いかけて上京していたはずの彼女が、なぜ、俺たちの地元で教師なんてしていたのか。

 これで合点がいった。

 なのに、ちっとも心は晴れなかった。

 すっきりするどころか霧がかかって、モヤモヤと、喉のあたりに小骨が痞えたような気分になる。

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