第14章 衝動(R18:花巻貴大)
もはや事件だった。
問題なんて可愛いもんじゃない。何故、どうして彼女がここに。仕事で疲れた脳はすでにパニックだ。
「俺、生徒である前に男だよ」
「……っや、だめ、川嶋くん」
「先生、俺、……もう我慢できない」
なんだあれ。なんだあの状況。安いポルノ映画かよ。あ、でもこの前AVで同じようなシチュエーション見た気がする。
って、そんなお話は置いといて。
(……どーしよ、どーすんの俺)
俺は頭を抱えていた。
駐車場入口に設置された青い自動販売機の陰に隠れて、ウンウンと悩みあぐねていた。
ちらりと、一暼。
自販機から顔半分だけを出してあちらの様子を窺うと、舞台搬入口と書かれた看板の下でキスをする男女のシルエットが見える。
キスをする、男女。
──キスだと!?
「……っああ〜! 暑っちいなあ!」
もうほぼ無意識だった。
後先考えずに一歩踏みだして、わざとらしく独りごちて、これ見よがしに車の鍵をチャリンと鳴らした。
くっついてた男女が。
バッ!と離れて。
男も女もほぼ同時に俺を見て、それから、女のほうだけが小さく口を開いた。
「……うそ、……貴大なの?」
これが、俺と彼女の再会。
俺たちが青春という名の三年間を過ごした城から巣立って、八年が経った、蒸しあがるような梅雨のある日のことだった。