第14章 衝動(R18:花巻貴大)
「……俺、先生のことが好きです」
ふと、声が聞こえた。
駐車場へつづく地下通路をのたくたと歩いていた俺は、その切迫した台詞に思わず足を止めた。
今日俺たちが派遣された現場は、県内にある芸能専門学校の定期公演会だ。
うちの社長がここの卒業生らしく、後輩たちへの激励も兼ねたゲストショーケースをすることになったのだけれど。
「……う、そ、……だろ」
俺は、またも遭遇していた。
してしまったのだ。
非日常というやつに。
毎日クタクタになるまで稽古して、毎日汗ダクダクになって怪人を倒して、毎日ベロベロになるまでタタさんと飲んだくれる。
それが大人になった俺の日常。
浮いた話ひとつない毎日だけど、それでも愛すべき俺の日常だった。
その、はずだったんだけど。
「ごめんなさい……私、生徒とそういう関係になるつもりはないの」
ここらじゃ珍しいくらいの豪華な学校に併設された地下駐車場。
俺のお目当てであるシルバーのワンボックスカーからたった数メートルの距離で、一組の男女が痴情をもつれさせていた。
別にそれは問題じゃない。
男がここの生徒だとか。
女がここの先生だとか。
ショーのために外部から来てるだけの俺にとっては、そんなのどうでもいいことだ。
では、なにが問題か。
「──……瀬野?」
生徒に言い寄られてる女が、俺の、初恋の相手だという【非日常的事実】が問題なのである。