第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
「Some people wan──……」
どれくらい泣いていただろう。
すっかり腫れてしまった目元を押さえてレストルームを出ると、ステージで自主練をしている京治くんと目が合った。
ぴたりと歌うのをやめた彼。
その視線はとても冷たい。
氷、という単語がよく似合う。
「……ごめ、邪魔しちゃって」
私は、京治くんのことが実は苦手だったりする。何を考えているのか分からないからだ。
黒尾さんも大概分からないけれど、彼はその分、自発的に自分というものを表現してくれる。
でも、京治くんは──
「アンタまだ居たんだ」
これである。
最初は嫌われてるのかと思った。
でもそれは、どうやら違うらしい。
『けーじは照れ屋なだけだから!』
以前光太郎がそう言っていた。
俄かには、信じがたいけれど。
「え、と、……そろそろ帰る、よ」
きょろりと周囲を見回す。
誰も、いない。
他の人たちはもう皆帰ってしまったのだろうか。二人きりのダンスフロア。気まずい沈黙が空気を重くする。
「もうやめれば?」
「──……え、」
「今回のことで木兎さんに嫌われたらどうしよう、っていうその泣顔」
私に向けて放たれるそれは、マイクを通していないはずなのにすごく透明で。
「木兎さんなら大丈夫」
「あの人馬鹿みたいに一途だし」
「だから、もう泣くのやめなよ」
わだかまりが解けるように。
不安が溶けていくように。
私の心に入りこんで、じわりと暖かい沁みをつくっていく、京治くんの声。