• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)





「Some people wan──……」




 どれくらい泣いていただろう。

 すっかり腫れてしまった目元を押さえてレストルームを出ると、ステージで自主練をしている京治くんと目が合った。

 ぴたりと歌うのをやめた彼。

 その視線はとても冷たい。
 氷、という単語がよく似合う。


「……ごめ、邪魔しちゃって」


 私は、京治くんのことが実は苦手だったりする。何を考えているのか分からないからだ。

 黒尾さんも大概分からないけれど、彼はその分、自発的に自分というものを表現してくれる。

 でも、京治くんは──



「アンタまだ居たんだ」



 これである。

 最初は嫌われてるのかと思った。
 でもそれは、どうやら違うらしい。

『けーじは照れ屋なだけだから!』

 以前光太郎がそう言っていた。
 俄かには、信じがたいけれど。


「え、と、……そろそろ帰る、よ」


 きょろりと周囲を見回す。
 誰も、いない。

 他の人たちはもう皆帰ってしまったのだろうか。二人きりのダンスフロア。気まずい沈黙が空気を重くする。



「もうやめれば?」

「──……え、」

「今回のことで木兎さんに嫌われたらどうしよう、っていうその泣顔」



 私に向けて放たれるそれは、マイクを通していないはずなのにすごく透明で。



「木兎さんなら大丈夫」

「あの人馬鹿みたいに一途だし」

「だから、もう泣くのやめなよ」



 わだかまりが解けるように。
 不安が溶けていくように。

 私の心に入りこんで、じわりと暖かい沁みをつくっていく、京治くんの声。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp