第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
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血って、全然落ちない。
光太郎の大きなTシャツを洗いながら、ひとり、そんなことを考えていた。
落書きだらけの洗面所。
壁一面にイベントの広告が貼りつけられたここは、トライアングル・オー・イーストの女性用レストルームだ。
『やだって! 医者は絶対やだ!』
『ダメ、問答無用、さっさと乗れ』
大怪我を負った光太郎を見るなり【天童くん家】への強制連行を決行したのは、私たちの帰りを待ってくれていた黒尾さんである。
天童くん、こと、天童覚。
この界隈では有名な闇医者らしい。
黒尾さん曰く、彼はどんな怪我でもキレイに治してくれるし、たとえそれが銃傷であったとしても「ぜんぶ揉消してくれんの」だそうだ。
きっと今頃、大絶叫しながら奥歯の治療をしてもらってることだろう。
やだーーー!
死ぬーーー!
光太郎はお医者さんが大の苦手。とくに歯医者さんは超苦手だ。涙目で抵抗してる彼が目に浮かぶ。
「……大丈夫かな、光太郎」
ぽつりとこぼした心配。
その声はカサカサに渇いていて、酒焼けもしていないのにひどく掠れてしまっていた。