第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
ふと、地面に広がる赤のなかに白を見つけた。ころりと転がる白。サイズは小指の先ほどもない。
粒のようなそれを拾いあげて、一度だけ、私はハジメのほうを振りかえった。
血に塗れてしまった粒。
それは、光太郎の奥歯だった。
──好き、だった。
ハジメ、あなたのことが。
本当に大好きだった。
真面目で、男らしくて、強くて、──優しい、そんなあなたを愛してた。
でも今度こそさよなら。
もう一生会うことはない。
そこにいる花のような彼、及川さんの妹さんと、どうかお幸せに。
「私は、──光太郎(カレ)と生きます」
まっすぐにハジメの眼差しを捕らえて告げた最後の言葉。さよならの裏返し。
私はこの町で生きていく。
彼に出会わせてくれたこの夜と、この世界に、身を潜めて生きていく。
光太郎と一緒に生きていく。
だから、さようなら、ハジメ。
「ひゅうー、強気な子」
何も言わずにただ閉口するハジメの傍らで、及川さんがおどけてみせる。
その軽やかな声を背中で受けとめて、私は、光太郎の腰に手を回した。帰ろう。そう小さく呟いて。
「──コラ! 何してる!」
今更やってくる警官たち。
「──なんの騒ぎだ!?」
散り散りになる群衆。
騒然としていた駅前広場。
警官たちによる必死の対応。
沈静化していく、喧騒。
数分後にはすっかり元通りになったスクランブル交差点を、最近流行りのダンスボーカルユニットが、素知らぬ顔で見下ろしていた。