• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)



 これ以上は無駄だと思った。

 もう話すことはない。
 そう思ったから、背を向けた。

 三年も連れ添った彼に、彼と生きた世界に、さよならするために背を向けた。

 もう、おしまい。
 二度と振り返らない。

 そう誓って一歩、そろそろ仕事を終えて戻ってくるであろう光太郎(カレ)の元へと、足を踏み出した。





「──……っ俺、結婚する」






 ………──え?

 声にならなかった。
 ヒュ、と喉が音を立てただけだった。

 ハジメが放った言葉の意味が分からなくて、踏み出したはずの足を止める。立てたばかりの誓いを破って、くるりと後ろを振りかえる。

 渡りかけの横断歩道。
 青信号が、点滅をはじめて。

 あの日。

 物語が終わりと始まりを迎えた、このスクランブル交差点の中心で、私は自分の行くべき道を見失っていた。



「…………け、っこん?」



 前進も後退もできなくて、ただ。

 ただハジメを見つめて。

 ようやく絞りだせたのはたった一言。結婚。ハジメが発した単語をそのまま返しただけ。

 ごちゃまぜになる群衆。

 私と、ハジメの間を、数えきれないほどの人がすり抜けていく。


「黙ってて悪かった、すまん」


 そう謝って頭を下げる彼の眼差しは、理解に苦しむくらい真っ直ぐで。


「何を、言ってるの?」


 頭に浮かんだ文字をそのまま口に出した。何を言ってるの。どういう意味なの。

 結婚?
 誰と?

 あなたが何を言ってるか分からない。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp