第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
これ以上は無駄だと思った。
もう話すことはない。
そう思ったから、背を向けた。
三年も連れ添った彼に、彼と生きた世界に、さよならするために背を向けた。
もう、おしまい。
二度と振り返らない。
そう誓って一歩、そろそろ仕事を終えて戻ってくるであろう光太郎(カレ)の元へと、足を踏み出した。
「──……っ俺、結婚する」
………──え?
声にならなかった。
ヒュ、と喉が音を立てただけだった。
ハジメが放った言葉の意味が分からなくて、踏み出したはずの足を止める。立てたばかりの誓いを破って、くるりと後ろを振りかえる。
渡りかけの横断歩道。
青信号が、点滅をはじめて。
あの日。
物語が終わりと始まりを迎えた、このスクランブル交差点の中心で、私は自分の行くべき道を見失っていた。
「…………け、っこん?」
前進も後退もできなくて、ただ。
ただハジメを見つめて。
ようやく絞りだせたのはたった一言。結婚。ハジメが発した単語をそのまま返しただけ。
ごちゃまぜになる群衆。
私と、ハジメの間を、数えきれないほどの人がすり抜けていく。
「黙ってて悪かった、すまん」
そう謝って頭を下げる彼の眼差しは、理解に苦しむくらい真っ直ぐで。
「何を、言ってるの?」
頭に浮かんだ文字をそのまま口に出した。何を言ってるの。どういう意味なの。
結婚?
誰と?
あなたが何を言ってるか分からない。