第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
私は、見つめていた。
微動だにせず。
怒ることも、泣くこともせず。
ただ、彼だけを見つめていた。
言い訳なんか聞きたくない──
これが私のすべてだった。
他に言いたいことなんてない。彼にどんな事情があろうが、彼がなにを話したとしても。そんなの私には関係ない。
「あなたは、嘘をついた」
あなたは仕事だと言った。
急に仕事が入ったのだと、電話の向こうで確かにそう言った。でもそれは、嘘だった。
仕事だと偽って、他の女性と一緒にいた。そしてその事実を私に黙っていた。どんな理由だとしても、それがすべて。
「どこからが嘘?」
「……絢香、話を聞」
「最初から全部嘘? 私と付き合うよりも前からあの子と関係があった、とか」
「だから違うってんだろ!」
ついに声を荒げた彼。
何かを訴えたげな瞳。
違うんだ。
話を聞いてくれ。
苦悶に歪んだ目元が、言葉を吐こうとして止まったままの唇が、そう無言の【イイワケ】を伝えてくる。
お腹のなかが燃えるように熱い。
熱くて、熱くて、苦しい。
ああ、私いま、すごく怒ってる。
「──なにが違うの?」
自分でもびっくりするくらい冷たい声だった。まるで温度がない。感情がぜんぶ抜け落ちてしまったみたいな。
そんな声。
ハジメは、ほんの一瞬。
聞いたことのない【元カノ】の冷淡な声色に、怯んだらしい素振りをみせた。
あの、ハジメが。
こんな風に怯んだりするなんて。
「もう全部手遅れなのよ」
心が、どんどん冷たくなっていく。