第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
話したくない、と思った。
聞かれたくない。
知られたくない。
光太郎のことを彼に話したところで、この現状が変わるワケじゃない。なにも好転しない。むしろ悪化してしまうかもしれないし、ハジメには関係ない。
それに何より──
「他に好きなひとが、できた」
「………やっぱりそ」
「──それはハジメも同じでしょう?」
ふたりの時間が、止まる。
ハジメは驚いたような顔をして、唇を「あ」と「え」の中間のような形にしたまま静止した。
流動をつづけるヒトの波。
鳴りやまない雑踏のざわめき。
スクランブル交差点を囲むようにして設置された大型マルチビジョンには、最近流行りのダンスナンバーが延々映しだされている。
この曲めっちゃいいよねー!
パフォーマーが超絶イケメン!
えー、私は断然ボーカル派!
悩みなどまるでないかのような、ハツラツとした若者たちの声。夏を目前に控えた繁華街。
まだ始まったばかりの夜は、こんなにも楽しげなオーラに包まれているのに。
私たちだけは──
「見たの、私、浮気してるとこ」
「浮気? ……違う、あれは」
「言い訳なんか聞きたくない」
こんなにも、冷え冷えとして。