第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
まるで全身が心臓になってしまったみたいだった。どくん、どくん。私のカラダを構築するすべてが脈打っていた。
駅前に着いて。
ふう、と一息。
私の居場所を聞いたハジメは「分かった」とだけ言って電話を切った。彼が常用しているのは都内を円形に走る路線。
この町で一番賑わう駅前広場の、忠犬の前。駅から降りてくる人々が一望できるここで、見慣れたはずの黒髪を待つ。
「……絢香、なのか?」
しかし私の意に反してそれは、ハジメの声は、背後から降りかかった。
国道方面。
坂へと続いている道。
駅とは反対方向からやって来たのであろう彼は、最後に見たときと変わらないスーツ姿でそこにいた。
よくアイロンの当てられたワイシャツ。ほんのり香ってくる柔軟剤。私が知らない匂い。一体誰に洗濯してもらっているのやら。
考えただけで目眩がしてくる。
「──……変わったな、お前」
ハジメがぼそりと呟いた。
私はなにも言わなかった。
「他に好きなやつ、出来たのか?」
私をまっすぐに見つめる彼。
その視線が注がれている先には男物のシルバーリング。派手なデザインのそれ。光太郎が小指に嵌めて愛用していたモノだ。彼からのプレゼント。
いまは、私の親指に嵌められている。