第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
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深夜一時を過ぎた頃。
光太郎は「ちょっと仕事してくる」と言ってクラブを後にした。送迎ドライバーのひとりがスピード違反で捕まってしまい、人手が足りなくなってしまったらしいのだ。
彼の仕事は、デリバリーヘルスに勤める女の子たちの送迎である。
それは私に出会う前からしていた仕事なワケだし、彼のプライベートは尊重したい。したいのだけれど。
「(私、すごく不安だよ、光太郎)」
「……何か用ですか黒尾さん」
「いやお前の胸中の代弁をな、こう」
突然後ろから声がしたと思ったら、その正体は黒尾さんの裏声だった。
いい感じに酔っている彼。
黒尾さんは絡み上戸なのだ。
要するに酔うと非常に面倒くさい。
「(マイダーリン光太郎がどこぞのデリヘル嬢に寝取られたらどーしよー!)」
「……内容に異議はありませんけどね」
「(早く帰ってきてスイートハニー)」
「その妙な横文字はやめてください」
テキーラの匂いがする黒尾さんに肩を抱かれて、適当にあしらう深夜一時。
ステージにはピンスポット。
暗闇にぽっかりと空いた丸のなかで、京治くんがその美声を響かせている。
相変わらず聴かせる歌声。
いたるところで涙ぐむ女性たちは、皆一様に「KG a.k.a ICE PRINCE」という文字が印刷されたファングッズを身につけていた。
京治、またの名を、氷の王子。
それが京治くんの愛称なんだそうだ。なんでも勝手に設立されたファンクラブが勝手に名付けたらしく、本人はすごく嫌がっているらしい。
このお話を嬉々として教えてくれたのは、京治くんのグッズ販売を手掛ける黒尾さんである。守銭奴め。