第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
彼は普段、すごくうるさい。
すごくすごくうるさい。
どれくらいうるさいかと言うと、私の住むマンションに光太郎が遊びに来ただけで、苦情の嵐が巻き起こるほどだ。ホラー映画を観ようなどと提案した私がバカだった。
ぎ、やああーー!出たー!
絢香!俺を守ってくれえー!
そのアホ丸出しの大絶叫ときたら、もはや騒音レベルの喧しさである。
だからこそ、──これに弱いのだ。
「……っは、あ、……絢香」
どこから出してるの。
その、甘ったるい艶声。
いつもの豪快なイメージなんてどこへやら。セックスをしている時の光太郎は、その声は、別人のような色香に満ち溢れている。
もともと生まれもった声が深みのある低音。そこに快感が加わると、それはまるで、ビターなチョコレートみたいに。
「っ、すげ、……きもち、い」
ちょっと掠れた嬌声。
女心を、容易く蕩けさせる。
光太郎のこんな声、他の誰にも聴かせたくない。私だけがいい。今までに何人がこの声を経験したの?
彼の過去にさえ、嫉妬してしまいそうになる。
「……こう、たろう、っ好き」
私は囁く。
これまで一度も抱いたことのなかった醜い感情の代わりに、ありったけの愛を。好きよ、光太郎。あなたが好き。
「好き? ……んん、足んない」
抽送を繰り返しながら彼が言って。
いやらしい水音と、その狂おしく甘い声が、同時に耳を犯していく。