第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
少しずつ、フロアで流されている音楽が遠ざかっていく。
聞こえなくなるメロディライン。
あれほどまでに鼓膜を揺らしていた重低音が、徐々にくぐもった音へと変わっていく。
「とうちゃーく」
光太郎のそんな声と同時に身体が降ろされた。背面で感じるひやりとした冷たさ。革張りのソファの感触。
【V.I.P ONLY】
今まさに閉まらんとしている黒一色の扉には、ゴールドの文字でそう彫られていた。
「……っ光太、待っ、て」
私をソファに降ろすや否や、深いキスを絡ませてくる光太郎。その美しい鎖骨のあたりに手を添えて、ちょっと強めに押し返す。
「なんで?」
いいから早く食わせろという顔。
獣欲に餓えた、猛禽類の瞳孔。
燃えるような黄金の虹彩に、ただ一点、浮かぶ瞳の熱さは太陽の黒点にも劣らない。
「俺のためだろ?」
「………え、」
「服、エロいの、俺のため」
彼が発する言葉はたった三音。
そのどれもが短くて、文法もへったくれもない拙いモノなのだけれど。
「──違えの?」
ああ、ほら、また。
怖いくらいに輝く双眼に捕まって、身動きが取れなくなる。
違えの。
彼のそれは明らかな宣告だ。
お前の着ている服がもし俺のためでは無いのなら、その喉笛を喰い破ることも厭わない。
獲物を射抜く黄金が、静かにだが確かに、──そう訴えている。
「……違、く、ないです」
「ん、いい子」
私の肯定を聞いた途端。
獰猛に光らせていた瞳を普段通りのそれに戻して、光太郎は、人懐こく笑んでみせるのであった。