第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
「スゲエかわいい!」
「……え?」
「ヤバい! マジで!」
そしてこの語彙力である。
渾身の力で抱きすくめられているから顔が見れないけど、声がボールみたいにぽんぽん弾んでる。
とても機嫌がいいみたい。
怒ってないなら、良かったけど。
「……あ、あの、もう離して?」
「ヤダ」
「でも皆見て、っわ、光太郎!?」
私を抱きしめていたはずの腕が、するんと滑りおちた瞬間の出来事だった。
突如として襲ったのは浮遊感。
フロアの床が一気に遠くなる。
目線が、すごく高くなる。
ターンテーブルの前にいる蛍くんが、無表情でこちらを見ていた。めちゃくちゃ冷めた眼で見ていた。
私と、私を担いだ光太郎を。
「っちょ、やだ! 降ろして!」
「ヤですー、降ろしませんー」
まるで米俵みたいに片腕で担がれて、必死に両足をジタバタさせる。でも彼はビクともしない。どんだけ馬鹿力なんだこの人。
「何してるの? どこ行くの?」
「いいことすんの、いいとこ行くの」
「え? ……え!?」
思考回路が追いつかない。
蛍くんだけじゃない。
皆こっち見てる。
何あのテキーラガール。
男のほう、あれコータローだよね。
光太郎?
あのフクロウの?
そうそう、梟の。
あいつクロの親友だってさ。
ああ、そういう繋がりね。
で、あの女、誰?
人々とすれ違うたびに聞こえてくる会話。チクチクと視線。そんなのお構いなしにお店の奥へと進んでいく光太郎。
そっちにあるのは確か──
「黒尾、ちょっと奥貸して」
「ソファ汚したらブッ殺すぞ」
「っるせえな、わーってるよ」
関係者や特別なお客さんだけが使うことを許されてる、──VIPルームだ。