第13章 夜陰(R18:カレカノ理論Ⅱ)
扉が、開け放たれる。
続々と入場してくるお客さんの波。夜に魅せられた人間たちが、ビートと美味しいお酒を求めてここへ集まってくる。
TRIANGLE O-EAST
【 Hottest Night in ▽ 】
掲げられた看板。
ピンクネオンのなかに燦々と輝くその文字のもと、始まろうとしている夜は、夏の陽射しよりもはるかに熱い。
「音上げろDJ」
「ライト落とせ」
黒尾さんがマイクに向かってそう命令を落とせば、ほら、心震わせる重低音が地を揺らす。
暗転していく箱のなか。
テキーラ片手にフロアを練り歩いて。
目が合うメンズ全てにウインクを。
って、さすがにそれは私にはハードルが高すぎるので、普通に歩いて接客に徹することにした。
「いらっしゃいませー……」
ほぼ音楽にかき消されるくらいの声量で言って、ホットパンツの裾をもじもじと直す。
下着が見えやしないか心配なのだ。
いや、ほとんど下着で歩いてるのと変わらないけれども。
『──イベントの手伝い、ですか?』
『人手足んなくて困ってんだよ』
『いやー……次の日も朝から仕事が』
脳裏をかすめる数日前の会話。
光太郎の仕事が終わるまで時間を潰そうと思って訪れたここ、トライアングル・オー・イーストでの一幕だ。
『タダで京治の歌聞けるぜ?』
『っう、それはちょっと、魅力的』
『木兎も遊びに来るし』
『あ、やります』
『チョッロイなお前』
光太郎の名前を聞いた瞬間、二つ返事でオーケーした自分を呪いたい。全力で呪いたい。
まさか、こんな卑猥な衣装でテキーラガールをやる羽目になるなんて──
「絢香ーーー!!?」
刹那、フロアに響いたのは低音。
箱内を満たす音楽なんか簡単に押しのけてしまう、うるさくて愛おしい、光太郎の声だった。