第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「お前は本当、……なん、っにも分かってない。俺がどんだけ絢香のこと好きか、どんだけの覚悟で一緒にいるか、全然、分かってない」
「……孝支、くん、私」
「俺の将来を自分の都合で左右できない、とか思ってんだべ? 絢香はそういうとこ馬鹿みたいに気にするもんな」
「ばっ、……ばか?」
急に饒舌に語りだした彼は、俯いたまま、大粒の涙をぼろぼろと零して話をつづけた。
馬鹿は言いすぎたゴメン。
そんな風に、鼻声で付け足して。
「俺、絶対離れないからな」
「……孝支くん」
「最初からそのつもりで付き合ってる。ご両親の仕事のこと聞いたときから、いつかこうなるって、分かってた」
パッ
顔をあげる彼。
小麦粉に負けないくらい白い肌。赤くなってしまった目元。見目はまるで雪兎のように可愛らしいのに、その眼差しはどこまでも真剣で男らしい。
私、本当に全然分かってなかった。
孝支くんは優しい。
優しくて、強い。
でもそれだけじゃなかった。
優しくて、強くて。
すんごくかっこいい。
それが私の恋人、最愛のひと。
「絢香、俺と結婚してください」
「そんで一緒に連れてって」
「オーストラリアに、俺を」
彼が差しだしたのは左手。
差し伸べられた掌におずおずと自分のそれを重ねると、降り注いだのは、薬指への触れるような口付けだった。
「……う、甘い」
辛党の彼がしかめ面をする。
指先に纏ったキャラメリゼ。
甘くて、ほろ苦い。
二人だけの幸せの味。
「今度はタバスコ塗っとくわね」
「それはそれで嫌だな」
「じゃあ、ハバネロソース」
だから嫌だって!
指が激辛な嫁とかカオスだろ!?
普段通りの朗らかな表情を携えた、そんな彼を見て、私は小さく目元を綻ばせた。