第12章 雪白(R18:菅原孝支)
災い転じてなんとやら。
きっともうすぐ大量の花火を抱えて帰ってくるであろう二人のために、私は特大のパンケーキを焼いていた。
「甘ったるい匂いだなー」
「ちょ、っと、動きづらいから離」
「だめ嫌だ離さない」
「……食いぎみだし即答だし」
「俺の気持ちがちっとは分かった?」
孝支くんは「男のロマン」とやらが叶ったのでご満悦のご様子だった。
さりげなく脇腹をさわさわしたり、隙あらばシフォンワンピのなかを弄ろうとしてくるけど、まあ、彼も男の子なので仕方ない。
そして、私は女の子なのだ。
「……ひゃ、っん……どこ触って、」
「んー? 絢香のいいとこ触ってんの」
「……っ孝支くんの、えっち」
好きなひとに身体を触られたらドキドキしてしまうし、それがきもちよかったら恥ずかしい声だって出てしまう。
料理どころではなくなってしまうのだ。だからほら、今だって。
「ぎゃっ! 焦げた!」
「う、わちゃー、丸焦げ」
「誰のせいだと思っ」
「善がってた絢香のせいだべ?」
「~~~! 変態孝支!」
流れていく甘やかな時間。
すっかり黒くなってしまったパンケーキが、ちょっと呆れたような顔でこちらを見つめている。
ほかほかのお鍋があって。
気のおけない友人がいて。
甘い甘いスイーツと、それから、掛けがえのない最愛(あなた)がいる。
あったかいね。
幸せだね。
「もう嫌い!」
「……でも本当は?」
「ばか!大好き!」
あはは、知ってる。
そう言って微笑んだ孝支くんの笑顔は、やっぱり春の陽だまりのように暖かかった。
【了】