第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「──……っ痛た、孝、……んっ」
ダイニングテーブルに押しつけられた太股。塞がれる呼吸。掴まれた肩に体重をかけられて、退路までもが塞がれてしまう。
咬みつくようなキスだった。
彼のそれはいつだって優しくて、互いを啄むような、心がくすぐったくなるほど甘いキスだったのに。
「やめ、……っん、苦し、」
逃げだそうと捩る身体。
退路を求めて彷徨わせた手がお皿にぶつかって、カチャンッ、中身のキャラメリゼが零れてしまう。
カラメルが付着した指先。
ネイルが、琥珀色に濡れて。
「や、っん、……んんっ」
汚れていないほうの手で、彼の胸板を押し返そうとした。
必死に押し返そうとするのだけれど、両手首を纏めあげられてしまう。いとも簡単に。男の腕力で。
ガシャンッ
二度目の衝撃音。
食器棚に打ちつけられたのだ。私の後頭部が、そして、背面が。
既に纏めあげられていた両手首が、今度は頭上に縫いとめられる。これでもかと背ける視線。引きつれる首筋。
彼のほうに向けた左耳に刺すような痛みを感じて、思わず呻くような声が漏れた。
「答えろよ、絢香」
無感情な声が直接注がれる。
彼に噛みつかれた耳たぶは熱く、鋭いその歯列が離れても尚、ジクジクとした鈍痛を訴えつづける。
「俺のことどう思ってんの?」
孝支くんの声。
「本当に、俺と別れたい?」
わずかに感情が戻ったような。
「……んなこと言わないでくれよ」
切なくて、悲しげな声色。
彼が、ずるずると崩れ落ちた。
床にこぼれていた小麦粉の雪原に膝をついて慟哭する、その美しい銀髪を見下ろして、呆然として、へなへなと。
情けなく、腰が抜けていく。