• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第12章 雪白(R18:菅原孝支)




「私、卒業したら渡豪するの」


 声が震えそうになってしまう。

 喉が苦しくて。
 心が痛くて。

 別れたくなんかないのに、でも、そう言わなければならなくて。ずっとずっと一緒にいたいのに、でも、自分の本当の気持ちを伝えることができなくて。


「……そ、っか、じゃあ俺も」

「っ駄目! それは、駄目」

「──……っ、また、即答かよ」


 今まで見たなかで一番悲しそうな笑顔。口元はたしかに笑っているのに、目が全然笑ってない。

 でも、次の瞬間──



「お前さ、全然分かってないよな」



 彼から一切の表情が消えた。

 笑顔じゃない。
 泣顔でもない。

 何の感情も表さない、虚無。

 突如として人間らしさを失ってしまったその表情に、私は絶句して視線を逸らす。


「何も分かってないよ、お前」

 ひたり
 境界線が破られた。

「俺のこと何だと思ってんの?」


 言葉をひと言発するたびに間合いを詰めて、彼は、虚ろなその声で空気を揺らしつづける。

 ふわり香るのはキャラメリゼ。

 砂糖を焦がしたその芳香が、彼が歩を進めたことによって風に乗る。私に届く。甘いのに、苦い。そう思う。


「なあ、俺ってなに?」


 自分自身をきつく抱くように、これでもかと上腕に食いこませた爪。

 図らずも震える身体。
 左肩を、彼に掴まれる感覚。


「絢香のなに?」

「お前にとって、」

「──俺って何なの」

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp