第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「私、卒業したら渡豪するの」
声が震えそうになってしまう。
喉が苦しくて。
心が痛くて。
別れたくなんかないのに、でも、そう言わなければならなくて。ずっとずっと一緒にいたいのに、でも、自分の本当の気持ちを伝えることができなくて。
「……そ、っか、じゃあ俺も」
「っ駄目! それは、駄目」
「──……っ、また、即答かよ」
今まで見たなかで一番悲しそうな笑顔。口元はたしかに笑っているのに、目が全然笑ってない。
でも、次の瞬間──
「お前さ、全然分かってないよな」
彼から一切の表情が消えた。
笑顔じゃない。
泣顔でもない。
何の感情も表さない、虚無。
突如として人間らしさを失ってしまったその表情に、私は絶句して視線を逸らす。
「何も分かってないよ、お前」
ひたり
境界線が破られた。
「俺のこと何だと思ってんの?」
言葉をひと言発するたびに間合いを詰めて、彼は、虚ろなその声で空気を揺らしつづける。
ふわり香るのはキャラメリゼ。
砂糖を焦がしたその芳香が、彼が歩を進めたことによって風に乗る。私に届く。甘いのに、苦い。そう思う。
「なあ、俺ってなに?」
自分自身をきつく抱くように、これでもかと上腕に食いこませた爪。
図らずも震える身体。
左肩を、彼に掴まれる感覚。
「絢香のなに?」
「お前にとって、」
「──俺って何なの」