第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「……っだ、大地!」
瞳を潤ませた私に気付いた途端、旭くんは慌ててリビングに駆けていった。
「なんか花火したくねえ!?」
「は? 花火?」
「今から買いに行くぞ!な!」
「え、っおい、急にどうした」
「いいから!」
ドタドタと足音。
それから玄関がガチャンと閉まる音がして、旭くんは外へ出ていった。怪訝そうな面持ちの澤村くんを連れて。
嵐が過ぎたような静けさ。
ぽつん、とひとりの台所。
気を、遣ってくれたんだよね。
どう考えてもそうだ。
今頃、しどろもどろになりながら澤村くんに事情を話してくれているのだろう。悪いことをしてしまった。
「なんだー? 旭のやつあんな急いで花火なんか、……絢香? え、どした?」
「っ! 来ないで!」
そう言ってしまってから、ハッとした。涙を隠そうとするあまり語気が強くなってしまった。冷たく突き放すような言い方を、してしまった。
どうしよう。
彼がなにも言わない。
きっと傷つけた。
絶対、傷つけた。
恐らくいつもの境界線に立っているであろう彼。孝支くんの顔が、見れない。
「……俺ってそんなに頼りない?」
「違っ──……!」
違うよ。そうじゃないよ。
私がただ、臆病なだけ。
そう言おうとして、咄嗟に彼を見て、そこから何も言えなくなってしまった。
目に映ったのは笑顔。
だいすきな孝支くんの、優しくて、慈愛に満ちてて、でもすごくすごく悲しそうな、──笑顔だった。