第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「ブルージルコン」
「ブルー……ジルコン……?」
「そう、旭くんの誕生石」
彼がしているネックレスには、澄んだ海のような色をした美しい宝石が嵌めこまれていた。
彼の誕生月は十二月。
世に広く知れ渡っている誕生石は、不透明な水色が特徴のターコイズだ。なのにそこを敢えて外したブルージルコン。
洗練されたデザイン。
華美でもなく、地味でもない。
「知識豊富な大人の女性からのバースデープレゼント。スイーツを作ろうと思ったのは、仕事で疲れた彼女を癒やしてあげたいと思ったから」
名推理?
冷えて固まりはじめたナッツをお皿に移して、小首を傾げた。
呆然とこちらを見つめるだけの旭くん。合掌したままのポーズで、信じられないと感嘆の声を漏らしている。
「瀬野さん、蝶ネクタイ付けたら?」
「Elementary,my dear Watson.」
「えっ? え、わ、ワトソン……?」
つーか発音の良さ!
旭くんは終始感激した様子で話していた。話していたのだけれど、さていよいよパンケーキを作ろうかというとき。
急に、穏和な顔つきが真剣になって。
「俺は推理とかじゃないんだけどさ」
「…………?」
「何か悩んでるなら、ちゃんとスガに相談しな? えっと、……あいつ、瀬野さんが元気ないって心配してたからさ」
思わず。ついうっかり。
手が震えてしまって。
床に落としてしまった小麦粉。ぼふんと間抜けな音がして、茶色のフローリングが白くなっていく。まるで雪みたい。冬に降る、冷たい、雪みたい。
目元は、こんなにも熱いのにね。