第12章 雪白(R18:菅原孝支)
鼻腔をくすぐる甘やかな香り。
砂糖が焦げていくときのそれを、旭くんはお祭りの匂いに喩えていた。
「お祭り? あ、綿飴?」
「そうそう! 綿飴!」
きつね色になった砂糖水にバターを加えてから、改めて「綿飴ね」と小さく呟く。瞼を閉じると、浮かぶのは忘れじの思い出。
去年の夏休み。
初めての浴衣デート。
隣町の花火大会で、孝支くんが綿飴買ってくれたっけ。ふわふわの。三色の。可愛くて、甘くて、それから。
「──……幸せの味がした」
「へ?」
「ううん、ミックスナッツ取って?」
「あ、うん、はい」
トッピング用に準備しておいたミックスナッツ。芳ばしい色のそれらを小鍋に投入して、くるりと木ベラをひと回し。
そうすれば、ほら。
艶のあるカラメルを纏った【ナッツのキャラメリゼ】のできあがり。
「林檎でやっても美味しいよ」
「へえ、りんごかあ」
「ブランデーを混ぜたアプリコットもおすすめ。歳上の女性にプレゼントするなら尚更、ね」
「──……!!?」
ボンッ
一気に火のごとく赤面する彼。
あ、図星だった?
言いながら悪戯に笑んでみせると、旭くんは眉毛をこれでもかとハノ字にして合掌のポーズをした。
「頼む! 内緒にして!」
「言わないよ、誰にも」
「つーか何で分かったの!?」
ほぼパニックでそう問うた彼の、男らしい首元。飾られたブルージルコンのネックレスを指差して、私はまたひとつ笑みをつくった。