第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「旭マジお前このヒゲェ!」
彼の絶叫が聞こえたのは、計量カップにお水を注いでいるときのことだった。
「ひえっ! え、スガ、何!?」
後ろを振り返った旭くんが見たのは、リビングと台所の境界線に立つ孝支くんの姿。
片手にお箸。
片手にタバスコ。
戦闘態勢ばっちりの友人が恨めしげに自分を睨んでいるのだ。旭くんが怯えるのも無理はない。
「っんで旭がよくて俺はだめ!?」
「旭くんは特別だからいいの」
「旭あとで髭全部むしるからなお前」
「えっ、なに、やだよ何で!?」
顔面蒼白でそのおひげを押さえて、旭くんは私の背後に隠れた。いや隠れられてないけどね。
すごく、大きいし。
「スガー! 蟹食べちまうぞー!」
「げっ! あー、もう!マジで覚えとけよ旭! 髭洗って待っとけ!」
ビシ!とお箸で旭くんを指名して宣戦布告した彼、孝支くんは、蟹を求めてリビングへと戻っていった。
蟹の残数はひとつだぞ。
よろしいならば戦争だ。
そんな会話が聞こえてくる。
「それで、キャラメリゼはね」
私は気を取りなおすように言って、意識を台所に戻した。
旭くんがスン、と背筋を正す。
小鍋にはたっぷりのお砂糖。
雪のように白く積もったそこへ、ゆっくりとお水を注いでいく。
灯る、ガスコンロの火。
ほわりと頬が温かくなるのを感じて、ほつほつと、私はキャラメリゼについての説明を落としていくのであった。